10周年を迎えて

 

入学金助成事業創設に伴う秘話

理事長   

 

平成167月、神奈川県の認証を得てNPO法人(特定非営利活動法人フミヱ記念援助会は事業を開始した。その定款を先ず紐解いてみる。

すると、真っ先に目に入るのが、人間、それも若者対象の事業であると明記してある文言である。

続いて、家庭経済的環境が苦しいにも拘わらず、保健・医療並びに福祉の分野において、将来、専門職として活躍する意思を、明かに持っている若者達としている。

そして三点目において、それら若者達が上級学校進学時に必要とする、入学金助成を行うと謳っている。

 

つまり、将来を担う若者達に期待して起業したのである。そこに、他にみられない特色がある。そのことで、神奈川県県民部に設立申請に赴いた際、応対した担当職員が、「この事業は、日本国内で唯一のものでしょう。素晴しい。」と絶賛してくれたのであった。

 

しかし、このような事業を創設するにあたって、隠れた秘話がある。それを、事業開始10年の節目の時を迎える今、披露してみたい。

 

それは法人名称を、“フミヱ”という人名を付けたことである。

“フミヱ”それは、この秋96歳を迎える老婦人の名前である。

この婦人は79歳の頃、一人娘に先立たれ独居老人となった。その後、大腸がん、続いて大腸穿孔という大病を患い、その都度開腹手術を受けた。また気管切開術をも施され、危うく一命を免れている。

大腸穿孔で入院手術を受けた頃、丁度、介護保険事業制度が実施された。これによって婦人は介護認定を受けた。認定内容は最下位のものであったが、それでも福祉関係の人との触れ合い、支援が受けられたことは、独居の婦人にしてみれば大きな支えであった。

 

娘が亡くなって以降、何かにつけて相談に預かるようになった。偶々高齢者向け施設が徐々に建設され始めた時期でもあったので、情報交換を行い、相談も受けた。その結果、介護付き施設に入居、以降12年余り、この間、転倒して股関節や肩関節等を骨折、入院手術を受けている。それでも、意識障害を生ずることなく、今も安住している。

このように、医療の的確な処置によって、また、介護分野の支援を受け、生き長らえてきた婦人は、医療に、また介護福祉に感謝の念を抱き始めていた。が、或る時思いがけないことを口にした。

「貴方には、何かにつけて世話になっている。そこで、私が持っている資産を貴方に遺贈するから受けてほしい。」という内容であった。

また続けて、そのために、遺言は公正証書にしてあるとも言うのだった。

全く思いもかけない内容であった。返事も出来ないでいると、更に、「必要なら使ってもいいわよ。」とも言う。嬉しさよりも驚きの方が先にたつ話であった。

 

その後2年くらい経過した頃、どういう雰囲気の時であったか記憶にないが、「社会的に役立つことに使いたいと思うので、少し使わせてほしい。」と言ったところ、即座に「貴方が良いと思うものに使いなさい。死んで持って行かれるものではないのだから、いいのよ。」と、承諾してくれた。

 

この言葉を聞き、中学・高校時代の親友何人かに話しかけた。

「本当にやるのか。」という内容から始まった話合いは、熱を帯びた。しかし、最終的には皆が皆賛同してくれた。

 

それからは事業内容についての具体的論議となった。そのなかで言ったことは、

「私は母子家庭育ちの人間である。大学は、横浜市に就職してから、二部(夜間部)に通った。苦学しながらも上級進学したいと願う若者は今でも結構いるだろう。そこで、そういう若者達を応援する事業を考えたい。限りある資金だから、大それたことは出来ないけど、保健・医療分野や福祉分野の学校に進学したい、という高校生達を支援する事業はどうだろうか。それによって、その老婦人が抱いている感謝の念が、具体的な形で表わされる。

思い付きだけれど、新入学時、一時払い負担が大きい入学金助成をすることは如何だろうか。」ということであった。すると

「それはいい、私も親父に死なれて進学を諦め、就職した人間だ。それが出来れば喜ぶ者が出てくるぞ。」と、真っ先に賛成してくれた人物がいた。

法人創設以来副理事長として、事業運営に協力してくれている大橋巌君である。

 

こうしたやりとりのなかで事業方針も固まり、公的なかたちで運営しようと、NPO法人にした。また、法人名も若干の意見交換があったが、婦人名を付けることで一致をみた。資金提供者の名前を銘記したかったからである。

因みに、この法人名となったフミヱとは、櫻井達にとって、遠縁の叔母の名前であることを付記しておく。

以上が、NPO法人フミヱ記念援助会設立に関る秘話である。

 

こうして発足したNPO法人フミヱ記念援助会が助成した人数は、この春で70余名に達しているが、この事業を教育関連事業と捉え、当初から積極的に関係する姿勢を見せ、基礎造りを始め、種々示唆を与えてくれたのが神奈川県教育委員会である。それによって事業が円滑に進捗出来たのは望外の幸せであった。この場を藉りて改めて御礼申し上げます。

同時に、当事業に対する公立・私立を問わぬ高校教育関係者の、ご理解とご協力も、喜びを与えて下さった。更には、神奈川県立保健福祉大学・横浜市立大学を始めとする県内に所在する医療・福祉系大学・専門学校等、進学先教育機関関係者の、ご理解、ご協力も嬉しかった。

怖いもの知らずという言葉そのままで発足した事業が、10年継続出来たのも、このように多くの教育関係者の方々の、ご理解・ご支援があったお蔭と、心から有難く存じています。

 

助成した人達にもご挨拶をいたします。

皆さん方が関わる健康弱者や高齢弱者が、皆さんの笑顔に接し、喜びの一日を過ごすことが出来るならば、それは我々NPO関係者としても、大きな喜びでもあるのです。今後とも健康に留意し、多くの方々から喜ばれるよう研鑚を積んでいって下さい。Men,Women for Others

 

最後に我が法人の会員にも、お礼を申し上げねばなりますまい。

将に10年一日の間、支えて下さったことに心からお礼申し上げます。この事業、行き着く先はまだ見えません。しかし、続けられる限りは続けていきます。引続きご支援下さるようお願い致します

 

継続は力なりという言葉があります。事実です。この小さな組織が、多くの人の英知によって運営され、その結果が、事業継続10年となったのです。

今後とも見守り下さい。ご支援下さい。心からの感謝のうちに。